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大阪地方裁判所 昭和62年(ワ)2076号 判決

主文

一  被告は原告に対し、金一三三七万六〇〇〇円及びこれに対する昭和六二年三月一四日から支払ずみまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

3  担保を条件とする仮執行免脱宣言

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は昭和二八年八月一九日被告に入社した。原告は全国金属労働組合光洋精工支部(以下「全金光洋」という)の組合員である。

2  原告は昭和六二年二月二三日に満五五歳となった。被告の退職慰労金支給規定によれば、同時点における原告の退職金額は一三三七万六〇〇〇円である。

3  全金光洋と被告との間には昭和五七年四月一日付けで、「組合員の定年に関する覚書」と題する労働協約(以下「本件労働協約」という)が締結されており、同協約には退職金の支払に関し、「〈1〉当面は満五五歳到達時点で打ち切り支給し、それ以降の勤続期間は支給しない。〈2〉退職金は、本来的には定年退職時に支払うべきであるが、組合員の要望、生活設計を考え、満五五歳到達時とする。」と定められている。

4  よって原告は被告に対し、退職慰労金支給規定及び本件労働協約による退職金請求権に基づき、前記退職金一三三七万六〇〇〇円及びこれに対する弁済期の後である昭和六二年三月一四日から支払ずみまでの商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

請求原因1ないし3の事実は認める。

三  抗弁

被告は全金光洋に対し、昭和六一年七月三〇日付け文書で、本件労働協約のうち退職金の支払に関する部分を同年一〇月三〇日をもって破棄する旨通告した(以下「本件破棄」という)。

四  抗弁に対する認否

抗弁事実は認める。

五  再抗弁

(一部破棄権の不存在)

1 本件労働協約は一通の書面に次のとおり規定されている。

一項定年年令

満六〇歳とし、誕生日の月末を退職日とする(以下省略)。

二項退職金の支払い(以下「退職金条項」という)

請求原因3記載のとおり。

三項賃金の取扱い(以下「賃金条項」という)

〈1〉 満五五歳の誕生日の月末時点で本給を改訂し、満五六歳時の基本給と能率給基準部分及び満五五歳時の職務給(基準内)の合計額の八〇パーセントを新本給とする。

〈2〉 役職に伴う手当は満五五歳の誕生日の翌月以降は原則として支給しない。その他の手当は定年年令の月末まで継続する。

〈3〉 満五六歳以降の昇給を平均昇給率の八〇パーセントとする。

〈4〉 満五六歳以降の賞与を平均支給率の八〇パーセントとする。

四ないし六項省略

2 被告の本件破棄は本件労働協約の一部である退職金条項のみを破棄したものである。

3 一通の書面に記載された労働協約は原則として一体であって、その一部のみを破棄することは許されない。

4 労働協約の一部破棄が認められる場合があっても、本件労働協約の退職金条項と賃金条項とは不可分一体であるので、退職金条項のみを破棄することは許されない。

(一) 退職金は賃金の後払であるから、退職金条項と賃金条項の法的性格は同一であるし、特に、本件労働協約において、六〇歳定年制であるにもかかわらず退職金支給時期が五五歳と定められているのは、五六歳以降の賃金及び賞与の減額、昇給率の低下、役職手当の不支給という賃金体系が採用されたことと密接に関係しているから、本件労働協約の退職金条項と賃金条項は、その法的性格及び内容からみて不可分一体となっている。

(二) 本件労働協約の退職金条項と賃金条項は、被告による提案の段階から交渉、締結に至るまで一貫して不可分一体のものとして取り扱われてきた。

(1) 被告における従業員の定年は昭和五〇年二月、五五歳から五六歳に延長されたが、退職金は五五歳の時点で支払われていた。そして、五六歳で定年となった者は嘱託として再雇用されたが、その期間は二年であり、賃金額、賃上げ額及び一時金は八〇パーセントに減額された。

(2) 全金光洋は昭和五〇年以降被告に対し、定年を、身分は正社員のままで賃金等の労働条件を引き下げず、無条件で六〇歳まで延長するよう要求していたが、被告はそれを拒否し続けていた。

(3) 被告は定年制に関し光洋精工労働組合(以下「光洋労組」という)との間で本件労働協約と同一内容の労働協約を締結し、右協約は昭和五六年四月一日から実施された。

(4) 被告は昭和五六年四月二日全金光洋に対し、定年制について本件労働協約と同一内容の提案(以下「本件提案」という)をした。これに対し全金光洋は、(2)記載のとおりの定年延長を求め、せめて五七歳までは無条件で延長するよう交渉を続けた。しかし被告は本件提案に合意するか否かの二者択一の回答を求め、全金光洋の要求を拒否した。

(5) 全金光洋は昭和五七年四月一日、被告の本件提案を受け入れ本件労働協約を締結したが、その最大の理由は、本件提案には賃金額の減額等の不利な部分もあるが、定年が六〇歳まで延長されること及び退職金が五五歳時点で支払われるという有利な部分が存在したからである。

(三) 被告は昭和六〇年一一月一三日全金光洋に対し、〈1〉満五六歳以上の賞与の支給率を一〇〇パーセントとし、〈2〉退職金は、満五五歳時の基礎賃金額に満六〇歳到達時の勤続支給率を乗じて算定し、満六〇歳時点で支払う旨の本件労働協約の改定案(以下「本件改定案」という)を提示した。これに対し全金光洋は、右〈1〉は合意するが〈2〉は合意できない旨回答したところ、被告は、〈1〉と〈2〉とは別々の問題ではないと答え、両者は分離できない不可分一体のものであることを明確に認めた。

(不当労働行為)

5 本件破棄は、全金光洋の組織拡大を妨害する意図のもとに行われた支配介入(労働組合法七条三号)であり、不当労働行為として無効である。

(一) 全金光洋は労使協調主義を排斥するため、被告は全金光洋を嫌悪し、その組織壊滅を狙って、昭和四七年ころから組合役員選挙に介入し、組合員の脱退を画策するなど不当労働行為を繰り返し、その結果全金光洋は分裂し、光洋労組が結成された。被告は、労使協調主義をとる光洋労組に様々な援助を与えてこれを育成する一方、全金光洋の組合員に対し不当な賃金や格付差別を行い、組合攻撃を加えてきた。光洋労組は被告と癒着し組合員の権利擁護に欠けるため、同組合を脱退し全金光洋に加入を希望する者が後を絶たず、被告は全金光洋が再び勢力を拡大することを恐れていた。

(二) 被告は、先に光洋労組との間で、本件労働協約と同一内容の協約を締結し昭和五六年四月から実施に移し、全金光洋に対し、右光洋労組との間で締結した協約と同一内容の協約締結に合意するか否かの二者択一の回答を求め、全金光洋はその提案を受け入れた。被告は昭和六〇年一一月一三日全金光洋に対し、本件労働協約について光洋労組と同一内容の本件改定案を提示し、その後の協議においても光洋労組との協議内容に合意するか否かの二者択一の回答を求めた。このように、被告は全金光洋の労働組合としての独自性を認めず、その団結権を否認する態度をとった。

(三) 光洋労組は退職金支払時期を定年時とするなどの労働協約の改定に同意し、右改定は昭和六一年四月以降実施されたが、その内容は組合員に著しく不利益であるため、同月以降本件破棄まで原告を含む三名が光洋労組を脱退し全金光洋に加入した。光洋労組には潜在的な全金光洋の同調者がおり、全金光洋へ加入組合を変更する者が増加する可能性もあり、被告にとって原告ら三名の組合変更は脅威であった。そこで被告は全金光洋の組織拡大を妨害するために本件破棄を行った。

(信義則違反・権利濫用)

6 本件破棄は、信義則違反あるいは権利濫用として無効である。

(一) 被告にとって退職金条項は不利な条項であり、賃金条項は有利な条項であるところ、本件破棄は被告に不利な条項のみを一方的に破棄したものである。

(1) 組合員は五五歳で退職金が入ることを予定して家の新築を計画したり家のローンの清算を組んでいるうえ、五五歳といえば、子供の大学進学や結婚費用としてまとまった金員が必要となる時期でもあるため、五五歳時点で退職金が支払われることの要求は強い。

原告も退職金の五五歳支給をあてにして家の大改造を計画していたところ、退職金の支給がないため銀行から借金してこれにあてている。

(2) 高卒勤続三二年で基礎賃金二七万八〇〇〇円の労働者をモデルとして計算すれば、五五歳時点の退職金支給額は一三〇〇万円余であり、一三〇〇万円を都市銀行の期日指定定期預金で運用すると(利率は本件改定案提示時の昭和六〇年一一月現在)、五年後には一七一九万二七四四円となり、民法所定年五分の単利で計算しても一六二五万円になる。これに対し、本件改定案による六〇歳時の退職金支給額は一四六七万八四〇〇円、五五歳以降の一時金の増加分は約八〇万円となるので、その総額は一五四六万八四〇〇円にすぎない。このように、本件改定案は労働者にとり一方的に不利益である。

(3) 本件改定案により、昭和六一年から同六五年まで五年間の退職金の支給分について、その総額を長期プライムレートで運用した場合に被告の得る利益と、一時金及び退職金係数が増加することにより被告の被る損失とを比較すると、被告は総額六億一一〇〇万円余の利益を得る。

(二) 再抗弁5(一)ないし(三)記載のとおり、本件破棄は、被告が全金光洋を独立した労働組合と扱わず、協議を尽くさないまま一方的になしたものであり、労使の信義に反する。

(労働契約の内容であること)

7(一) 原告は本件破棄前に全金光洋に加入していた。

(二) 労働協約によって定められた労働条件は労働協約の規範的効力により個々の労働者の労働契約の内容となっているから、退職金五五歳到達時支給ということは、原・被告の労働契約の内容となっており、本件破棄によって左右されない。

六  再抗弁に対する認否及び反論

1  再抗弁1及び2の事実は認めるが、同3は争う。

2  同4冒頭の主張は争う。

(一) 同4(一)の事実は否認する。退職金と賃金の法的性格が同一であるとはいえないし、賃金条項は定年が延長された期間の賃金を定めているのに対し、退職金条項は定年延長にもかかわらず退職金を従来と同じ時期に支払うというものにすぎず、両者は本質的に別個の問題である。

(二)(1) 同4(二)(1)の事実は、再雇用制度適用者の身分に関する事項を除き認める。

(2) 同(3)の事実は認める。

(3) 同(4)の事実のうち、被告が本件提案をしたこと、全金光洋は無条件で六〇歳までの定年を求めたこと、被告は全金光洋の要求を拒否したことは認める。

(4) 同(5)の事実のうち、被告と全金光洋間で本件労働協約が締結されたことは認めるがその余は否認する。

(三) 同4(三)の事実のうち、被告は〈1〉と〈2〉とは別々の問題ではないと答え、両者は不可分一体のものであることを認めたことは否認し、その余は認める。被告は別個の問題である〈1〉と〈2〉をたまたま同時期に提案したにすぎない。

3  同5冒頭の主張は争う。

(一) 同5(一)の事実は否認する。

(二) 同(二)の事実のうち、被告が全金光洋の労働組合としての独自性を認めず、その団結権を否認する態度をとったことは否認し、その余は認める。光洋労組の組合員数は約四九〇〇名、全金光洋のそれは二一七名であり、絶対多数を占める光洋労組との間で締結した労働条件等を、少数組合である全金光洋との間で全く異なって設定することは、労働組合法一七条の精神からしても、同一企業内における同一取扱の原則からしても不可能であるので、被告は光洋労組と締結したものと同一の労働条件を全金光洋に提案したのである。

(三) 同(三)の事実のうち、光洋労組は退職金支払時期を定年時とするなどの労働協約の改定に同意し、右改定は昭和六一年四月以降実施されたこと、同月以降三名が光洋労組を脱退し全金光洋に加入したことは認めるが、その余は否認する。

4(一)  同6(一)(2)及び(3)の事実は否認する。右(2)及び(3)の試算は架空の非現実的な理論であって失当である。なお、定年延長に伴い従来存在しなかった満五六歳以上の賃金をどのように定めるかは本来白紙であるから、賃金条項が被告にとって有利な条項とはいえない。

(二)  同6(二)は争う。なお、本件労働協約改定交渉の経緯は以下のとおりである。

(1) 被告が本件労働協約において退職金の支払時期を五五歳時点としたのは、五五歳定年制を延長する過渡期において従業員の生活設計等を配慮した暫定的な取扱である。

(2) 被告は、退職金条項が暫定措置であり改定が予定されていたことから、全金光洋に対し、本件労働協約締結から相当期間経過後の昭和六〇年一一月一三日本件改定案を提示し、同年一二月一〇日と翌年一月二〇日に具体的な内容について協議し、全金光洋の質問に対し十分説明した。

(3) 全金光洋は、退職金の支給年令の変更そのものについては反対しないものの、五六歳以降賃金の減額を行わないこと、勤続四五年までの退職金支給率を設定することを求めて折り合わなかった。

(4) 被告は昭和六一年七月一六日の労使協議会でこの問題に対する全金光洋の態度を改めて確認したが、全金光洋は同年七月二四日付け文書で同意できない旨通知してきた。被告としては、昭和六〇年一一月の提案以降既に八か月が経過していること、多数組合である光洋労組とは合意に達し昭和六一年四月から実施していること、同年一〇月に全金光洋の組合員の一名が満五五歳となるが、被告の従業員として人事上同一の取扱が必要であり、また同一取扱をしても何ら不合理にはならないこと等を総合的に考慮し、本件破棄を行った。

(5) 被告はそれ以降もこの問題に関する労使協議会を開催し、全金光洋の協力を求めたが、全金光洋は五五歳で退職金を支払って欲しいとの主張を繰り返すのみであった。本件破棄以降も同年八月二八日、九月二四日、一〇月二〇日の三回労使協議会が行われたが、合意に達することができず、破棄の効力が生じたが、被告としては更に全金光洋と協議を拒否するものではないことを通知して現在に至っている。

5  同7(一)の事実は認めるが、(二)は争う。

七  再々抗弁

(再抗弁7に対し)

1 労働協約の規範的効力により、労働協約によって定められた労働条件が労働契約の内容となるとの見解に立つのであれば、被告と光洋労組との間で昭和六〇年一一月二七日付け労働協約が締結された時点で、原告は光洋労組の組合員であり、同協約は退職金支払時を六〇歳定年時と規定しているから、原・被告間の労働契約の内容はその旨変更された。

2 原告は本件破棄前に光洋労組から脱退し全金光洋に加入しているが、被告は本件破棄を行い、昭和六二年一月六日原告に対し、本件破棄により退職金条項は効力を失っているので被告の就業規則に従い退職金を定年時に支払う旨通知した。

3 したがって右通知により、原告が本件労働協約に基づき退職金請求権を取得する昭和六二年二月以前である同年一月六日以降原・被告間の労働契約内容のうち退職金の支払時期については六〇歳定年時である旨変更された。

八  再々抗弁に対する認否

1  再々抗弁1の事実のうち、被告と光洋労組との間で昭和六〇年一一月二七日付け労働協約が締結された時、原告は光洋労組の組合員であったことは認める。

2  同2の事実は認め、同3は争う。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1ないし3、抗弁並びに再抗弁1及び2の各事実は当事者間に争いがない。

二  本件破棄は、本件労働協約のうち退職金条項のみを破棄したものであるところ、労働協約の一部条項のみを解約することが許されるか否か検討する。

1  本件労働協約締結までの経緯並びに本件改定案の提示及びその交渉の経緯は次のとおりであり、これを覆すに足りる証拠はない。

(一)  被告における従業員の定年は昭和五〇年二月、五五歳から五六歳に延長されたが、退職金は五五歳の時点で支払われていたこと、そして五六歳以降の者については、二年間の再雇用制度が適用されたが、賃金額、賃上げ額及び一時金は八〇パーセントに減額されたことは当事者間に争いがなく、〈証拠〉によれば、再雇用者の身分は嘱託であった。

(二)  〈証拠〉によれば、全金光洋は昭和五〇年以降被告に対し、定年を、身分は正社員のままで賃金等の労働条件を引き下げず、無条件で六〇歳まで延長するよう要求していたが、被告は受け入れなかった。

(三)  被告は定年制に関し、光洋労組との間で本件労働協約と同一内容の労働協約を締結し、その協約は昭和五六年四月一日から実施されたこと、被告は昭和五六年四月二日全金光洋に対し本件提案をしたこと、これに対し全金光洋は前記のとおり無条件で六〇歳までの定年延長を求めたが、被告はこれを拒否したこと、全金光洋は昭和五七年四月一日付けで、本件提案を受け入れ本件労働協約を締結したことは当事者間に争いがない。

(四)  〈証拠〉によれば、右(三)の交渉において、被告は全金光洋に対し本件提案に合意するか否かの二者択一の回答を求め、全金光洋は、本件提案のうち五六歳以降の賃金額等の減額には不満はあるが、定年が六〇歳まで延長されること及び退職金が五五歳時点で支払われることを評価し、本件提案を受け入れた。

(五)  被告は昭和六〇年一一月一三日全金光洋に対し、〈1〉満五六歳以上の賞与の支給率を一〇〇パーセントとし、〈2〉退職金は満五五歳時点の基礎賃金額に満六〇歳到達時の勤続支給率を乗じて算定し、満六〇歳時点で支払う旨の本件改定案を提示したことは当事者間に争いがない。そして、〈証拠〉によれば、全金光洋は翌年一月右改定案のうち、〈1〉は受け入れるが、〈2〉は、五六歳以上の賃金についての減額率の引き下げと、勤続四〇年まで退職金の勤続支給率の確定がなされるなら、受け入れてもよいと提案したが、被告は、全金光洋の提案は、全金光洋に有利な部分のみを合意することになるので、〈1〉と〈2〉の両者を受け入れるか否かの二者択一の回答を求めた。

2  右認定の事実によれば、本件労働協約は、定年を五六歳から六〇歳に延長するにあたり、退職金の支払、賃金の取扱等について協定したものであり、退職金条項と賃金条項とは互いに密接な関連性を有し、そのいずれが欠けても協約の締結は期待できなかったこと、それ故、被告は右各条項を一括して提案し、全金光洋も一括して交渉の対象となし、退職金条項と賃金条項が一体をなす労働協約として一通の書面に作成されたものと認められるから〈証拠判断略〉、その一部である退職金条項のみを解約することは許されないと解される。したがって、被告の本件破棄は無効というべきである。

そうすると、原告は、本件労働協約の退職金条項に基づき、満五五歳時点で被告に対し退職金請求権を有するところ、同時点における原告の退職金額が一三三七万六〇〇〇円であることは当事者間に争いがない。

三  よって、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 蒲原範明 裁判官 土屋哲夫 裁判官 大竹昭彦)

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